Rsb ~もしも、私が~ 作:うらしまB3たろ 原作:R.SHINA http://haritora.net/look.cgi?script=1245 http://bari3.s324.xrea.com/urashima/index.html (c)らしまB3たろ 2000/10 発表 2018/3/11 誤字脱字修正 2021/4/25 文字コード対応。微調整。 ◆登場人物◆ 千秋(ちあき) 千鶴(ちづる)  千秋の母親。 胡桃(くるみ)  千秋の異母姉妹。 総子(のぶこ)  リーダー的存在(教師) 大皿(おおさら) マネージャー的存在(女子生徒、桃子) 林(はやし)   クールな二枚目的存在(太郎君) 役所(やくしょ) パシリ的存在(千秋、桃子の父親) -1-  音楽。 役者が次々に登場して、それぞれが準備を始める。音楽に身を委ねてリラックスしているもの、二人一組で腹筋をしているもの、台本の最終確認をしているもの。何気なく漂う張り詰めた空気。緊張感が客席に伝わったころ、合図で円陣が組まれる。気合入れ。 役者代表 本番、行くぞー! 役者達 おー!  そして舞台は、物語の世界へと変っていく。  ステージには千秋が一人。音楽がフェードアウトするとテレビゲームの音が聞こえる。「スーパーマリオブラザーズ」1-1。最初のクリボーでいきなりゲームオーバーになったようだ。 千秋 ちょっと待って!あなた今リセットボタンを押そうと思ったでしょ。ゲームをリセットして、もう一度やり直す。「きっと次こそはうまく行く。」誰もがそう考えるんだ。でもね、やり直したからって、本当にうまく行くとは限らないでしょ?  雑踏。千秋の足取りが重い。トラックのクラクション。驚く千秋。どことなく役所に似ている運転手が 運転手 おい、ガキ!道っぱた歩くとっきゃ、前見やがれ!  トラックが走り去るときに水溜りをはねる。千秋に水飛沫がかかってしまう。泣き出したいのを堪えて、黙々と歩く。家に着く。できれば入りたくない、でも勇気を振り絞ってドアを開ける。できれば母に会いたくない、でも母の千鶴がやってくる。 千鶴 お帰りなさい。ねえ、どうだった? 千秋 あれ、仕事は? 千鶴 今日は休むって言ったでしょ。アンタから電話があると思ったのよ。どうしてすぐにかけないの? 千秋 直接言った方がいいと思って。 千鶴 それじゃあ… 千秋 …落っこちた。 千鶴 番号の見間違いじゃなくて?本当なの? 千秋 ごめんなさい。 千鶴 塾も、家庭教師も…どうして… 千秋 ごめんなさい。 千鶴 …「ごめんさい」じゃないわよ。  千鶴が去る。 千秋 合格発表から一ヶ月半。私が通うこととなったのは、普通の高校だった。私を一流高校に通わせたかった母の夢は、音をたてて崩れたのだ。私のせいで。  クラスメイトがやってくる。彼女は、大皿によく似ているのかもしれないが、後姿なのでよく分からない。 女 それじゃ、毎日言われてるんだ。 千秋 うん。アンタは落ちこぼれだって。もう、うんざりする。 女 じゃあ私も落ちこぼれね。同じ高校に通ってるんだもん。 千秋 そんなつもりで言ったんじゃないよ。 女 千秋のお母さんってスパルタ? 千秋 お母さんはね、私を一流の高校に通わせたかったの。周りの優秀な子にあわせて、良い高校へ行って、良い大学へ行って。周りに遅れないように育てたかった。 女 いるいる、そんな親。自分の期待を子どもに託して、結局は自分のためなのよね。あ、ごめん。千秋のお母さんは・・・ 千秋 お母さんは必死なのよ。私につらい思いをさせたくない、父親のいる子に負けさせたくない。そう考えていたのだと思う。 女 父親のいる子? 千秋 私、お父さんがいないの。私が生まれてすぐ、女を作って逃げちゃったんだ。 女 まじか。 千秋 学校に居るほうが落ち着くわ。私、どうせ家にに帰っても、お母さんの愚痴を聞くだけだもの。 女 まあ、元気出していきましょう! 千秋 うん。それじゃあ。 女 ばいばい。 千秋 また明日。  友達が帰る。千秋も学校をで出て行く。総子と林、役所がやってくる。自動車整備工場。音楽とともに林の華麗なるバック転。 総子 アンタすごいねー!どこで習ったの? 林 … 総子 無口な所がなお良い!気に入った!次の主役は任せたぞ! 役所 そんな!「次は、お前が主役だ」と、昨日まで私におっしゃっていた、あの熱い約束は? 林 静かに。あんまり大声を出すと、通行人に気づかれるよ。  丁度そのころ千秋が工場の前にやってくる。3人には気づかないで通りすぎる。 総子 冷静沈着。素晴らしい。 役所 どこが?バック転なんかして、ちょっと自分の素を見せてみたりなんかして…あーいやらしい。 総子 (裏拳) 役所 ウッ!なんでー!いつもいつも僕ばっかり…(泣きながら)大皿さーん!  役所、退場。残された二人も仕方なく追う。千鶴がやってくる。ここは千秋の家。 千鶴 (電話をしている)どうもすみません。ええ、熱はもう無いみたいなんですけど。いえ、皆さんにうつしてしまったら申し訳無いですから。ええ、本当にお構いなく。はい、明日は大丈夫です。お店の時間にはちゃんと。はい。本当にご迷惑おかけしました。(電話を切る) 千秋 ただいま。 千鶴 おかえり。 千秋 まだ良くならない?かぜ。 千鶴 明日になれば大丈夫よ。まったく、どうしようもないわ。私も、アンタも。 千秋 今日ね、陸上部に行ってきたの。まだ仮入部だけど。でね、同じクラスになった子も入って、仲良く… 千鶴 ろくでも無い。 千秋 え? 千鶴 あんな高校の子じゃ、ろくでも無い子なんでしょ。 千秋 そんなこと無いよ。桃子は良い子だよ。とっても親切だし… 千鶴 そうやって仲良しごっこをして、アンタの3年間は無駄に終わるのよ。 千秋 お母さん。いつになったら許してくれるのよ。 千鶴 いつだろうねぇ。私にもわからないわ。 千秋 … 千鶴 何がいけなかったんだろう。もっと、ちゃんとした塾に通わせれば良かったのかねぇ。借金とかいっぱいしてでもアンタに勉強をさせてあげれば良かったのかねぇ。あーあ。 千秋 もうよしてよ! 千鶴 アンタ… 千秋 何よ。 千鶴 アンタ…落ちこぼれなのよ。 千秋 ひどい!そんな事言うなら、私、出て行く。 千鶴 どこか当てでもあるの?そんな友達もいないんでしょ。 千秋 …  千鶴が去る 千秋 私が高校に落ちてからと言うもの、母はとても冷たかった。きっと私に期待していたから、私の事を本当に思っていたからこそ余計に辛くあったのだろう。お母さんは、本当は私のことが好きなんだ。だけど私はまだ、高校1年生。大人の気持ちなんてわからない。もうお母さんの顔なんか見ていられない。その日はあまりにも辛くなって家を飛び出した。そうするしかなかった。とっても小さな家出。(家を飛び出す) 私の家の近くには自動車修理工場がある。夜になれば誰もいなくなるし、きっと寝る場所くらいはあるだろう。(古びたドアを開ける) -2-  高らかなホイッスル 千秋 そこで私は運命的な出会いをすることになる。 音楽。総子、大皿、役所、林が次々に登場する。4人はジャージやウインドブレーカーを着ている。まさに芝居の稽古着といた感じ。千秋は彼らに見つからない様に物影に隠れる。4人は個々にウォーミングアップを始めたように見えたが、だんだん動きがそろってきて、やがてダンスになる。 総子 ピーッ、ピッ!やめー!  みんなダンスに夢中で止める気配が無い。 総子 止めないと土踏まずを・・・ 役所 土踏まずを?(と総子に近づく) 総子 (なにも言わずにパンチ) 大皿、林 なんでー!? 役所 土踏まず、関係ないし。 総子 はい、ミーティングするよ!その前に大皿ちゃん! 大皿 はいっ!音楽ストップです!  曲が止まる。一同深呼吸。そして、ストレッチなど。本人達は真面目に稽古をしているつもりだが、普通の人から見たら、かなり滑稽。 総子 それでは、今日のお客様を発表する!今日は大変だぜい。 一同 (ざわめき「おいおい、大変だってよ。」「かったるい。」など) 総子 (咳払い)お客様は、お・ん・な・の・こ。だー! 一同 おー!!(やる気) 役所 その女の子。女子大生? 総子 中学3年生。 一同 おー!・・・お? 林 中3ってガキじゃん。 役所 俺、ストライクゾーン。 大皿、林 え? 総子 やる?それともやらない? 大皿 もちろん引き受けましょうよ。 総子 よし、それではプロフィールを言うぞ。 一同 はっ! 総子 川本千秋、15歳。幼い頃から母親と二人暮らしをしている。高校受験におち、母親から受けた言葉に傷ついている。 大皿 リーダー。彼女はいつやってくるのですか? 総子 私の不思議に鍛え上げられた能力に導かれて、午後7時ジャスト!彼女はこの場所にやってくる。 大皿 彼女はまだ若いです。私たちの力で助けてあげましょう! 一同 (林以外)おう! 大皿 林くん?  下手で林が117で時報を聞いている。みんな下手に集まる。 林 (時報を真似て)午後7時ちょうどをお知らせします。 総子 来る! 林 ぴっ、ぴっ、ぴっ・・・ 鳩時計 ぽっぽー 一同 うわー!  驚いて一斉に上手へと飛び退く。すると上手から千秋が顔を出して、 千秋 あのー 一同 うわー!(下手へと飛び退く) 鳩時計 ぽっぽー 一同 うわー!(上手へ) 千秋 あのー 一同 うわー!(下手へ)  時計と千秋の板挟みで、飛び退き続ける4人。一定のリズムで「ぽっぽー」と「わー!」  やがて時計が鳴りやむ。 一同 はあ、はあ。 総子 はじめまして、はあ、あなたの、はあ、お名前は?はあ? 千秋 え、あ、あの、川本・・・ 林 川本・・・なにさん? 千秋 ち、千秋です。 総子 川本千秋。かわもとちあき?  大皿がスケッチブックを取りだし開くと「川本千秋、かわもとちあき (15才)」 と書いてある。総子、スケッチブックと本人を確認して、 総子 おっけー!私の目にくるいなし! 千秋 あなたは? 総子 失礼。人の名前を聞く前には、まず自分から。私の名前は「のぶこ」。「びしなのぶこ」 千秋 ビシナノブコ?  大皿がスケッチブック開くと、「備品総子、びしなそうこ(?才)」と書いてある。 千秋 ビヒンソウコ?。 総子 これで、(指して)「びしなのぶこ」って読む! 役所 備品倉庫って、自動車修理工場にふさわしい名前だよね。ぷっ。 総子 (役所へ裏拳) 役所 ・・・僕ばっかり。 大皿 川本千秋さん。ここではね、なんでも話すことができるのよ。どんな不満でも、どんな悩みでも。 千秋 あの、あなた達、何者なんですか?人の工場に勝手に忍び込んで。もしかして、泥棒?・・・いや、あの、私、失礼します。 林 こんな愉快な泥棒はいない。 千秋 楽しい時間をありがとうございました。け、警察とかには言いませんから、ご心配なく・・・(去ろうとする) 役所 (千秋の腕をつかむ)誤解だよ。 千秋 ひっぃ!ほんとに、ほんとに言いませんから、助けてください!(などと取り乱す。役所の手をふりほどいて)失礼します!(逃げ出そうとする) 総子 お母さんと!  千秋、突然の台詞に立ち止まる。しばしの間。 千秋 ・・・え? 総子 お母さんと、うまくいっていない。 千秋 ・・・ 大皿 私たちは何でも知っているのよ。あなたことなら、何でも。 総子 あなたが高校に落ちたことも、それで母親にひどいことを言われたことも、だから、かわいい家出をしていることも。 千秋 ・・・ 総子 あなたには父親がいない。 千秋 なんで!?いったい何者よ。 総子 わたし達は、何でも知っている。 千秋 あなたは!? 総子 あなたは優しい人ね。 千秋 優しくなんかないわよ。 総子 あなたは優しい人。 千秋 お母さんの期待を裏切った。私、全然優しくなんかない。 総子 悲しい話だけど、実際、親に虐待されて自殺をする子がいる。子どもが自殺するって言うのは、親への復讐心なんだ。 千秋 自殺?・・・わたし虐待なんかされていません。 大皿 あなたはお母さんからひどいことを言われて、ひどく心が傷ついた。心が傷つけば、それも精神的な虐待と言えるのよ。 千秋 そうかもしれません。でも、 大皿 でもね。自殺なんかだめよ? 千秋 あの・・・ 総子 そう、生きたくても生きられない人だっているんだ。なぜ、自ら死を選ぶんだ。 千秋 ちょっと待って! 死ぬだの自殺だの、いったい何の事ですか? 役所 君の事に決まってるじゃないか。 林 私たちは、何でも知っている。 千秋 あはは。人違いですよ。ひ、と、ち、が、い。確かに私はお母さんにひどい事を言われて、家を飛び出してきました。けど、自殺なんか考えてませんよ。 四人 ・・・へ? 千秋 しっかりしてくださいよ。もう。 役所 じゃあ、 千秋 勘違いか、人違いですよ。あなた達の。  総子以外、一斉にブーイング。 総子 申し訳無い!てっきり君が自殺志願の少女かと思いこんで、なあ。 大皿 ええ。ごめんなさいね。私たち、勘違いしていたみたい。 役所 ははは、リーダーのドジか・・・ 総子 (裏拳) 役所 またボクばっかり・・・ 一同 ははは 千秋 なーんだ。それじゃ、私はこれで。 大皿 お母さんと仲良くね。 千秋 はい。(去ろうとする) 総子 ちょっと。忘れもんだよ。(千秋のカバンを掲げる) 千秋 ああ、すみません。 総子 お財布とか入ってるんだろ。気をつけないと。 千秋 ありがとうございます。それじゃ。(去ろうとする) 総子 ちょっと。これもだよ。 千秋 まだ忘れ物ですか?すみません、私、間抜けなんです。 総子 これはなんだい?  総子が掲げた手の中には光るものがある。4人はそれが、カッターであることをとっくに知っていた。千秋は、やはり自殺するつもりだったのだ。 総子 カッターなんかで何を作ろうとしていた? 千秋 ・・・いつのまに抜き取ったの? 総子 何を作ろうとしていた? 千秋 えーと、び、美術の宿題を・・・ 総子 何を作ろうとしていた? 大皿 悲しみを作ろうとしていた。 千秋 ・・・本当にになんでも知っているのね。 総子 大体、こんなもんで人間が死ねる分けなかろう。 千秋 ・・・ 大皿 自殺する子どもの心理は、だいたいこんなものよ。「親を苦しめたい」とか「世間に恥をかかせたい」とか。でもね、あなたは死ななかった。ううん。死ねなかったの。心の奥底では「お母さんを苦しめたくない」そう思ったから、いまあなたは死んでいない、生きているのよ。本当の川本千秋は優しい子なの。 千秋 わからないよ。高校に落ちて、お母さんをすごく傷つけたんだもん。私。 役所 じゃあ、高校に受かっていたらどうだったんだろう。 千秋 幸せだった、そうきっと幸せだったの。 役所 お母さんにひどいこと言われないしね。それじゃあ、高校に受かってみようよ。 千秋 私は落ちたの!現実に不合格だったの。 役所 だったら、別の現実を見てみようよ。  音楽 千秋 え? 役所 私たちは、「もし高校に受かっていたら」っていう世界へ行くことができるんだ。 千秋 なにそれ? 林 お芝居は時に、現実を作り出すこともできる。 総子 難しいことはいい。千秋、あなたはあなたが合格した世界へ行ってみたいと思わない? 千秋 もちろん行ってみたいです。 総子 じゃあ、行きましょう。行けば分かる。 千秋 どうやって? 総子 こうやって。  音楽。4人がダンスをすると時間が巻き戻る。家を飛び出た時、学校での時、あの合格発表の日。すべてが巻戻り、彼らの芝居が始まる。 -3- 千秋 何が起きたの? 総子 つまりこう言うこと。  雑踏が聞こえる。トラックのクラクション。驚く千秋。役所が演じる運転手が、 運転手 おい、ガキ!道っぱた歩くとっきゃ・・・ 総子 前見て歩きます!すみません。・・・そして。  トラックが走り去るときに水溜りをはねる。千秋に水飛沫がかかってしまうはずだが、そこは二回目、軽々とよける。 千秋 これは、合格発表の日。 総子 そうよ。今この瞬間からやり直すんだ。 千秋 また、お母さんを悲しませるの? 総子 いや。繰り返す時間の中に、『一切れの歪み』を加る。  家に着く。勇気を振り絞ってドアを開ける。千鶴がやってくる。 千鶴 お帰りなさい。ねえ、どうだった? 千秋 あれ、仕事は? 千鶴 今日は休むって言ったでしょ、アンタから電話があると思ったのよ。どうしてすぐにかけないの? 千秋 直接言った方がいいと思って。 千鶴 それじゃあ… 千秋 …落っこちた。 総子 繰り返す時間の中に、『一切れの歪み』を  もう一つの現実へ 千秋 受かったのよ。・・・私、受かった。ずっと入りたかった高校。 千鶴 番号、見間違いじゃなくて?本当なの? 千秋 本当よ。 千鶴 良かったわね。本当に良かったわね。・・・おばあちゃんに電話しましょ。 千秋 うん。  千鶴が去る 千秋 ここ、修理工場よね。近所の。なのになんで車が来り、お母さんがいるの? 総子 これはすべて作り物の世界。お芝居の世界。 千秋 でもお母さんは、 総子 あれはお母さんを演じているだけの事よ。 千秋 ううん。本物の私のお母さんだった。 総子 まあ、本物の母親と見れればそれでいい。 千秋 話しが全然見えないんですけど。  千鶴が戻ってくる。同時に総子が消える。 千鶴 千秋 千秋 お母さん・・・? 千鶴 どうしたの? 千秋 ・・・うんん。なんでもない、おばあちゃん何だって? 千鶴 それがね、千秋。 千秋 なに? 千鶴 シメサバ。 千秋 えっ!? 千鶴 合格のお祝いにシメサバを贈ってくれるって。渋いわよね。 千秋 そう。で?おばあちゃん喜んでくれた? 千鶴 もちろん喜んでいたわよ。昔から千秋の事は特別かわいがっていたからね。 千秋 よかった。これから華の女子校生だ。 千鶴 何言ってるの。ちゃんと勉強して、立派な高校生になるのよ。 千秋 分かってます。お母さんもよろしくね。 千鶴 分かってます。ちゃんと千秋の授業料稼がなけりゃね。だから、これから家にいないときが多いかもしれないけれど、一人で大丈夫よね? 千秋 お母さん、私もう15よ。これからは高校生なんだから。 千鶴 そうね。ねぇ、千秋。 千秋 なに? 千鶴 千秋にはお父さんが必要なのかしらね。今から結婚する気なんて無いわよ。だけどね、やっぱり周りのご家族を見ているとねぇ。 千秋 何言ってるのよ。私はお母さんがいれば十分。全然気になんかしてないんだから。 千鶴 そういってもらえて、嬉しい。 千秋 お母さん。 千鶴 なに? 千秋 好き。 千鶴 ・・・何言ってるのよ、この子は。(と言いながら思いっきり頭をなでる) 千秋 イタイよ。 千鶴 千秋・・・シメサバ  千鶴が去って、総子が現れる 総子 どう?もう一つの世界は。 千秋 お母さんも、私もすごく幸せ。学校もうまく行きそうな気がします。 総子 これからどうするの? 千秋 どうするって? 総子 このままこの世界にいることもできるし、元の、不合格した世界へ戻ることもできる。 千秋 元の世界へ戻るなんて、そんなの嫌です。 総子 じゃあ、このままこの世界で生きて行くといい。 千秋 総子さん。 総子 なに? 千秋 これは、作り物の世界なんですよね。総子さんたちが作り出した、お芝居の世界なんですよね。 総子 たしかに、今まで暮らしてきた世界から見れば、これは作り物の世界かもしれない。でも、作り物が現実になることもある。 千秋 どう言うこと? 総子 君がこの世界を演じつづける限り、この世界こそが現実ということ。 千秋 意味がわからないです。 総子 じゃあ、逆に考えてみましょう。今まで千秋が暮らしてきた世界が「お芝居じゃない」なんて言える? 千秋 どうして? 総子 あなたの周りが、全員役者で、あなたが朝起きてから、夜眠るまで、あなたの周りの人を演じつづけている。 千秋 そんなバカな話し・・・ 総子 無いと言いきれる?そんな確信や証拠はどこにも無いだろう。 千秋 私の周りの人たちが全員役者? 総子 (客席を指して)例えばこの辺、みんなエキストラ。 千秋 ・・・?? 総子 まあいい。川本千秋はこのまま、合格した世界で生き続ける。それでいいんだね。 千秋 はい。  生徒(千鶴以外)が教室に入ってくる。総子は先生なので、はける。みんなばらばら。 総子 川本千秋はかねてから希望していた、超有名進学高校へ入学した。友達はまだいない。それは周りにいる生徒だれもがそうだった。ある日の高校風景。ホームルームの時間よ!  学校のチャイム 総子 はーい皆さんこんにちは!元気が無いぞ、もう一度、こーんにちは! 生徒 ・・・ 総子 良い反応だぁ。 役所 こんな担任で大丈夫なのかなあ。 林 できる人ほど、こうなんですよ。きっと。 総子 皆さんが入学してから一週間が経ちました。友達百人できたかなぁー! 生徒 ・・・ 総子 先生、この空気が大好きです。 大皿 あのー 総子 何かしらぁ? 大皿 質問があるんですけど、 総子 気安く話し掛けるな! 大皿 ひぃ!  チャイム 総子 それは、今日の有意義なホームルームはおしまい。帰りのホームルームでは学級委員を決めるので、そのつもりでね。  と言って去る。 胡桃 ねえ、泣いてるの?大丈夫? 大皿 だって、だって。ひっく。私何かいけないこと言った? 胡桃 先生がおかしいのよ。気にしない方がいいわ。 大皿 うん。ありがとう。優しいのね。私、桃子って言うのよろしく。 胡桃 私は、胡桃。よろしくね。  千秋は仲間には入れないでいる。でもまだ一時間目。 総子 はーいみなさん。こんにち「は」 生徒 は? 総子 一時間目は私の授業よ。何と私は数学の先生だったんですねぇ。 林 起立、気を付け、礼 総子 着陸! 生徒 ・・・(着席) 総子 皆さんは、この○○大学付属高校の優秀な生徒です。その自覚と誇りを持って、授業に臨んでくださいね。返事は? 生徒 はい。 総子 それでは教科書、微分積分学187ページ。ラプラス変換の性質と公式。「区間0から無限大で定義された関数FXに対して、適当な定数M、B、Xゼロ、ただしBは正の数。これをとると、X大なりXゼロになるすべてのXに対して以下の式が成立するとき、FXをなんというか?」これを皆さんに答えてもらいましょう。 千秋 無理!! 総子 何というか!? 胡桃 「指数位」です。 総子 条件式は? 大皿 絶対値FX小なり、MEのBX乗 総子 正解。こんなもんは初歩の初歩です。しっかり予習してください、千秋さん。 千秋 ・・・ウソでしょ。 総子 こうして、千秋の学校生活は平和に進み、放課後。 大皿 それじゃ、毎日言われてるんだ。 胡桃 うん。せっかく高校受験が終わったってのに、もう予備校だなんて、信じられない。 大皿 仕方ないわよ。そういう高校に入ったんだから。 千秋 ええ?もう大学受験の事、考えてるの?スゴーイ。 大皿 それにしても厳しいよね。胡桃のお母さんってスパルタ? 胡桃 お母さんはね、私を一流の大学にに通わせたいのよ。 千秋 どうして? 胡桃 私のお父さんがだらしない人でね、よその女の人と子どもを作っちゃったりして。 千秋 あれま。 胡桃 ちゃんとした旦那さんを見つけるためには、ちゃんとした大学を出ないと。 大皿 そう言うものかねぇ。 胡桃 ちょっと、その「かねぇ」てのやめてよ。オバさん臭いわよ。 大皿 あーら、そう? 胡桃 そうです「わよ」 二人 (吹き出す) 胡桃 帰りましょう。 大皿 ええ。 千秋 あの、私も・・・  大皿と胡桃は、千秋の事にかまわず帰ってしまう。仕方なく一人で帰る千秋。  パジャマ姿の千鶴がやってくる。千秋の家。 千鶴 (電話をしている)どうもすみません。ええ、熱はもう無いみたいなんですけど。いえ、皆さんにうつしてしまったら申し訳無いですから。ええ、本当にお構いなく。はい、明日は大丈夫です。お店の時間にはちゃんと。はい。本当にご迷惑おかけしました。(電話を切る) 千秋 ただいま。 千鶴 おかえり。 千秋 まだ良くならない?かぜ。 千鶴 明日になれば大丈夫よ。 千秋 お母さん働き過ぎなんだよ。少しお休みしたら? 千鶴 とんでもない。ちゃんと千秋の授業料稼がなきゃ。私の事なんか気にしないで、千秋はちゃんと勉強するのよ。 千秋 うん。私がんばる。 千鶴 学校にはなれたの? 千秋 ・・・うん。 千鶴 お友達はできた? 千秋 ・・・話しをする友達はいるんだけど。まだ通いはじめだから。 千鶴 そう、そうね。 総子 その翌日。  授業中、総子が黒板の前で授業をしている。後ろの席では手紙を回して楽しんでいる大皿と胡桃。 総子 ・・・では皆さんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしている、このぼんやりと白いものが、本当は何かご承知ですか?古来より天の川は・・・ 大皿 (授業なんかそっちのけで)ははは、胡桃それまずいって。(と言いながら手紙の返事を書く) 胡桃 (返事を受け取って)仕方ないじゃないの、だって相手はさ(と言いながら書く) 大皿 (受け取って)  と言うように、すっかり楽しそうな二人。千秋はまだ馴染めない。何とか仲間に入れてもらいたくて、その手紙を横取りしようとする。 千秋 ねえ、私も混ぜてよ。 胡桃 (奪い返して)ちょっと止めてよ。人の手紙に何するのよ。 千秋 ごめんなさい。  胡桃たちはまたやり取りしている。またしばらくして、千秋が割り込む。 千秋 ねえ、良いじゃない。私にも見せてよ。 胡桃 いいかげんにしなさいよ。千秋には見せられないのよ。 千秋 どうしてよ! 胡桃 アンタの事かいてるんだから、当たり前でしょう。 千秋 え?・・・・どうして?? 胡桃 私、千秋の秘密、知っているんだから。 千秋 何の事?私、秘密なんか無いもん。 胡桃 千秋の父親のこと! 千秋 ちょっと、なによ!! 総子 ほーら、声が大きいぞ。授業中は寝ててもいいが、私語はするなー。 胡桃 父親の顔見たことないでしょ。 千秋 どうして、そういうこと言うのよ! 総子 そこの大きい人!うるさいぞ。ちょっと立て!あらあら、立ちあがったらなお大きい。 千秋 (走り去る) 総子 授業中ですよ。まったく。 暗転。闇の中から幼い頃の千秋と千鶴の声が聞こえてくる。 千秋 (泣きじゃくっている) 千鶴 千秋。ほら千秋。もう泣かないのよ。またいじめられたのね。いじめっ子っていうのは、相手が泣くとどんどん調子に乗っていじめるのよ。だから、千秋がもっとしっかりしないといけないのよ。 千秋 お母さん・・・ 千鶴 何? 千秋 どうして、家にはお父さんがいないの? 千鶴 お父さんの事でいじめられたの? 千秋 ミッちゃんのお父さんはおまわりさんなんだって。そんで、そんでアケミちゃんのお父さんは○○屋さんでケンくんのお父さんが学校の先生。 千鶴 千秋はなんて言ったの? 千秋 千秋はね、「お父さんいない」って言ったの。そしたら、みんなが(また泣いてしまう)ねえ、どうして? 千鶴 うーん。千秋には難しいお話しだからねぇ。でもね、赤ちゃんはお父さんがいないと生まれてこないのよ。 千秋 じゃあ、私にもおとうさんがいたの? 千鶴 ううん。その人はお父さんになれなかったの。 千秋 どうして? 千鶴 その人はね、別の子のお父さんだから。  千秋の独白 千秋 私のお母さんはとってもまじめな人です。たとえ許されない恋だとしても。精一杯その人を愛してしまいました。まじめなお母さんはたった一人だとしても、私を育ててきました。生物学上、私のお父さんは、ある会社の社長だったそうです。家庭も持っていました。でもどうして?どうして胡桃がその事を知っているの?  胡桃が現れる 胡桃 私のお父さんがだらしない人でね、よその女の人と子どもを作っちゃったりして。・・・千秋をずっと探してたのよ。だって仮にも姉妹なんですもの。それに、お父さんも会いたがっているのよ。 千秋 ・・・そんな。そんなの嘘よ。お父さんは私や、お母さんの事が面倒になって、逃げ出したんでしょ。 胡桃 確かにそうかもしれない。だからって私の好意を無駄にするのはどうだろう? 千秋 好意ってなによ。 胡桃 千秋だって無理してこの高校に入って苦労しているはずよ。 千秋 勉強のことなら一生懸命がんばる。絶対に負けない。 胡桃 ご健闘を祈りますわ。でも他にも心配することがあるんじゃない? 千秋 何が言いたいの? 胡桃 お金よ。 千秋 お金? 胡桃 千秋みたいな貧乏人が来る高校じゃないって事よ。 千秋 ご心配なく。お母さんが何とか工面してくれるもの。 胡桃 あたなのお母さんは体が弱い。そうだったわね。なんだって限界があるわ。 千秋 だとしたら何だって言うのよ。 胡桃 おかげさまで、お父さんの会社は不景気に強い。援助してもらうと良いわ。 千秋 ・・・ 胡桃 千秋のお母さんだって、少なからず、うちのお父さんの事にひかれたから、千秋を育ててるんじゃないの?  胡桃が消える。林がやってくる。千秋と二人で下校。 林 あ、千秋さん。 千秋 えーと、たしか同じクラスの。 林 太郎です。 千秋 太郎くんはクラブ入らないの? 林 入っていますが、今日はお休みなんです。将棋オセロクラブ。 千秋 少し運動したら。 林 中学校の時は野球部でした。 千秋 補欠? 林 レギュラーでサードを。4番バッターで背番号3でした。 千秋 へえー、見かけによらないもんだ。 林 千秋さん、さっきの話し本当なんですか? 千秋 あいつと姉妹だって事? 林 ええ。 千秋 本当よ。こんなに似てないのに。 林 見かけによらないもんです。 千秋 男の人ってさ。無責任よね。子育てとか全部女に任せて逃げちゃうんだもん。 林 一部の現実を一般化しないで下さい。 千秋 ごめんなさい。 林 一度会ってみたら良いんじゃないかな? 千秋 何? 林 胡桃さんとあなたの話し聞いてました。全部。 千秋 見かけどおりに、陰険なのね。 林 もしかしたら、あなたとお母さんを助けてくれるかもしれません。 千秋 そうね。 林 それではここで。 千秋 じゃあ。  林と分かれる。千鶴がやってくる。 千鶴 お帰りなさい。 千秋 ただいま。どうしたの?お母さんなんか嬉しそう。風邪、治った? 千鶴 まだ。今日もお休みしちゃったわ。 千秋 じゃあ、どうして。 千鶴 今お客さんが来ているの。うーん。そうね。千秋も一度会っておいたほうがいいわ。もう高校生なんだから。 千秋 まさか、・・・お父さん。 千鶴 どうして!?何で知っているの? 千秋 ・・・今日はちょっといろいろあって・・・  奥から役所がやってくる。彼が千秋、そして胡桃の父親である。 役所 どうも・・・はじめまして。かな。 千鶴 いやね。お互いに緊張しちゃって。 千秋 お母さん!(千鶴を引っ張って役所から離れた所に) 千鶴 なによ。お父さんの前で。 千秋 どう言うつもりなの?この人は私達を捨てたんでしょ。なんでいまさら。 千鶴 千秋が高校生になって、苦労しているだろうからって。心配しに来てくれたのよ。 千秋 お母さんは嫌じゃないの? 千鶴 一度は好きになった人だもの。 役所 千秋ちゃん。実は胡桃から君の事を聞いていたんだ。 千秋 だからなんですか?何の用ですか? 役所 ひどい嫌われ様だなぁ。まあ仕方ないか。私はあなた達の前にいるべき人間じゃない。早々に帰らせてもらうつもりだよ。 千鶴 ごめんなさいね。千秋はまだ子どもなのよ。 役所 千鶴さん。 千鶴 はい? 役所 これを受け取ってください。(封筒を差し出す) 千鶴 これは?(封筒の中身を見る、お金などが入っていると思われる)こんなにたくさん! 役所 今まで苦労させてすまないと思っている。どうか千秋ちゃんの学費に当ててほしい。 千鶴 ありがとうございます。 役所 ・・・それと。 千鶴 何ですか? 役所 私との事は無かったことにしてください。 千鶴 なんですって? 役所 (千秋に)千秋ちゃん。君にはお父さんなんて、はじめから居なかったんだよ。 千鶴 どう言うつもり? 役所 正直言って焦りました。あなたとの関係は終わっていたはずなのに。まさか、千秋ちゃんとウチの娘が同じ高校に通っているとは。困るんですよ。私の過去に触れられては。 千秋 ? 役所 できることなら、あなた達には二度と合いたくは無かった。どうか、そのお金ですべてを忘れてください。私とあなた達の間にはなにも無かったと。困るんですよ。私も社会的な立場あるんだから。 千鶴 ・・・あなた。 役所 あなた・・・そんな呼び方をするな!まだ俺の女のつもりでいる。吐き気がするんだよ。  役所が去る。 千秋 ・・・お母さん。 千鶴 千秋は、あの人の事知っていたの? 千秋 うん。今日学校で、同じクラスの嫌な女の子から聞かされた。 千鶴 そう。それはかわいそうだったね。ごめんね。 千秋 お母さんが誤ることじゃないよ。 千鶴 ごめんね。ごめんね。私のせいで辛い思いさせちゃって。 千秋 ホントに辛いのはお母さんでしょ。 千鶴 ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね・・・ 千秋 おかあ・・・さん? 千鶴 ごめんね。ごめんね。ごめんね。 千秋 ねえ、ちょっとしっかりしてよ。お母さん。しっかりして。 千鶴 ごめんね。ごめんね・・・ 千秋 お母さん!  どんな悲しみよりも悲しい音楽。 千秋 こんなはずじゃなかったのに。私があの高校に受かれば、本当の幸せだと思っていたのに。こんなはずじゃなかったのに。どうしてよ・・・  緩やかな、そしてもの悲しいリズムに併せて、総子、皿、林が踊り始める。世界は現実、千秋が不合格だった現実へと戻る。 総子 もう、お芝居は終わったのよ。ここはあなたの現実。  千秋を四人が囲んでいる。 千秋 高校に落ちると、お母さんを悲しませる。 四人 そう。 千秋 高校に受かると、お母さんを苦しめる。 四人 そう。 千秋 二つの未来。どちらを選んでも、私は不幸。 四人 二つの未来。どちらを選んでも、千秋は不幸。 千秋 そうでしょ? 四人 (首を横に振る、否定) 千秋 二つの未来。どちらを選んでも、私は不幸なの。 四人 二つの未来。どちらを選んでも、千秋は不幸なの? 千秋 違うの? 四人 (うなずく) 千秋 「私は不幸」間違ってる? 四人 (否定、間違っていない) 千秋 「どちらを選んでも、私は不幸」間違ってる? 四人 (否定、それも間違っていない) 千秋 「二つの未来」? 四人 (うなずく)「二つの未来」 総子 あなたの未来は、果たして二つだけなのかしら? 千秋 そうでしょ?不合格でお母さんを悲しませる未来と、合格して苦しめる未来。たったそれだけ。 総子 あなたが高校に落っこちた未来でも、それは星の数。 千秋 ? 総子 未来は自分の手で切り開く。そうすれば、幾通りもの未来があなたを待っている。 千秋 「未来は自分の手で切り開く」・・・気障(きざ)なだけの台詞(せりふ)は嫌いです。 総子 そうね。それじゃあ、自分以外の、千秋以外の誰かに、千秋の未来を切り開いてもらいましょう。 千秋 私以外の誰か? 総子 そうよ。この世界の主人公は千秋だけじゃない。千秋を大切に思う人がいれば、その人だってあなたの未来を変えてしまうのよ。 千秋 私を大切に思う人・・・お母さん。  千鶴がやってくる。 千鶴 さっきは、ひどいことを言って。ごめんなさいね。お母さん、いろいろ疲れていて、それであんな事を・・・もし、千秋が変な気を起こしていたらどうしようと思って、本当に心配していたのよ。 千秋 変な気ってなに? 千鶴 例えば家出とか、自殺とか。ううん。とんでもない。千秋は強い子だもの。そんなことしないわよ。 千秋 自殺なんて・・・お母さん、私が高校に落ちたこと、許してくれる。 千鶴 許さないわよ。 千秋 ・・・ 千鶴 お母さんより先に死んだりしたら、本当に許さないからね。私は、千秋が側にいてさえくれればいいの。千秋こそ、許してほしい。お母さんは、高校に受かってもらうために、もっといっぱい勉強させてあげたかった。それができなくて、本当に悪かったと思ってるの。 千秋 そんなことないよ。今の高校にいるだけでも、お母さんにいっぱいお金使わせているんだから。 千鶴 そのことで千秋に会わせたい人がいるのよ。 千秋 そのこと? 千鶴 千秋の学費のことで。そうね。千秋も一度会っておいたほうがいいわ。もう高校生なんだから。 千秋 まさか、・・・お父さん。 千鶴 どうして!?何で知っているの? 千秋 ・・・今日はちょっといろいろあって・・・ 千鶴 会いたくない? 千秋 会うよ。お父さんと会って、ちゃんと話をするよ。 千鶴 お母さんの気づかない間に、大人になったわね。さあ、いきましょう。 千秋 うん。(総子たちに)ねえ、これで良いんだよね。お父さんに会っても良いんだよね。 総子 もちろん。今から君が会うお父さんは、また別の未来のお父さんなんだから。 千鶴 誰と話してるの? 千秋 自分自身よ。  千秋と千鶴が去ってゆく。 総子 99%の人間は、現在の自分に不満を持っています。悩みを抱えています。 大皿 99%の人間は、人生をやり直せたらいいのに、と思ったことがあります。 役所 99%の人間は、後悔をします。 林 99%の人間は・・・人生をやり直せたらいいのに。  千秋がいる。 千秋 私はのこりの1%。もう、人生をやり直したいと思わない、思えない。私は揺るぎない今の人生を歩き続けるわ。彼らに出会えたから。そして何より、私を大切に思ってくれるあの人がいるから。 鳩時計 ぽっぽー 総子 おっけー!見事な台詞まわし、どこで習ったの? 千秋 そんな、見事だなんて… 総子 謙虚(けんきょ)な所がなお良い!気に入った!次のリーダーは任せたぞ! 役所 そんな!「次は、お前がリーダーだ」と、昨日まで私におっしゃっていた、あの熱い約束は? 総子 (裏拳) 役所 …(泣きながら)大皿さーん! 大皿 さあ、新リーダー。新しいお客さんがお見えになりますよ。 千秋 はい。  二人の女の子がやってくる。 二人 あのー 一同 うわー!(下手へと飛び退く) 鳩時計 ぽっぽー 一同 うわー!(上手へ) 二人 あのー 一同 うわー!(下手へ)  時計と千秋の板挟みで、飛び退き続ける5人。一定のリズムで「ぽっぽー」と「わー!」  音楽 千秋 (笛を高らかに鳴らす)やめー!(二人に向かって)わたし達は、何でも知っている。ここでは、なんでも話すことができるのよ。どんな不満でも、どんな悩みでも。  ダンス。  終わると千秋にスポット。 千秋 ちょっと待って!あなた今リセットボタンを押そうと思ったでしょ。ゲームをリセットして、もう一度やり直す。きっと次こそはうまく行く。誰もがそう考えるんだ。でもね、やり直したからって本当にうまく行くとは限らないでしょ? やり直さなくたって大丈夫なのよ。あなたにはまだ未来がある。これから何が起こるかわからない。辛い思い出も、悲しい思い出も全部うけとめて、それで生きていければ、きっとすばらしい未来が切り開けるのよ。これ、嘘のようだけれど、本当の話。 おわり http://haritora.net/look.cgi?script=1245 http://bari3.s324.xrea.com/urashima/index.html (c)らしまB3たろ