砂漠で迷ったラクダ使い 作:稲葉こう一+うらしまB3たろ https://inapapapa.web.fc2.com/urashima/index.html  ボクのおじいさんも、そのまたおじいさんも「砂漠はとんでもなく暑い所」そう言っていました。しかし、昼間の灼熱は、すべて夜空に逃げていってしまうのです。  テレビもラジオもなかった時代の人々は、冷たく澄んだ夜空を見上げて、星と星を線で結び、星座をつくっていました。そして、その星座にまつわる神話を思い描き、子供たちに語り継がせていったのです。  ボクのおじいさんのように・・・  むかしむかし、そのまたむかし。 まだ地球に本物の砂漠があった頃のお話。 ある砂漠の町に一人の若いラクダ使いがおりました。  その若者は不器用で、商売下手で方向音痴で、何の取り柄もなくて・・・町中の笑われ者です。しかしこの若者、いつも笑顔。  みんなの笑い者になっても笑顔。町の中でも砂漠の中でも笑顔。仕事が失敗しても笑顔。  どんなに悲しいときでも、いつも笑顔。  若者はラクダ使い。ラクダを使って遠く離れた町に荷物を運ぶことが若者の商売です。  とっても情けない話ですが、若者はラクダに道を案内してもらっていました。  彼は、彼のラクダと話しをすることができたのです。  彼のラクダはとても賢くて、力持ちで、優しくて、良きパートナーでした。若者はそんなラクダが大好きで、食事のときも、眠るときも、いつもいつも一緒でした。 ラクダと話しているときが一番の笑顔でした。  ある日のことです。 若者とラクダが大きな荷物を背負って砂漠を歩いていますと、今まで出会ったことのない、とても巨大な砂嵐が襲ってきたのです。若者はラクダのかげに身を伏せ、ラクダは顔を若者に覆ってもらい、お互いかばい合って、何とか嵐をやり過ごしました。  しばらくして辺りの様子をうかがった若者は愕然としました。砂嵐は砂丘の形をすっかり変えてしまっていたのです。  背負っていた水もパンも、ほとんどどこかに吹き飛ばされて、砂の底に沈んでしまったようです。  若者の顔から笑顔が消えたのは、これが初めてでした。    何も考えられなくなった若者はただ水を求めてオアシスを探しだしました。 ・ ・・大切なラクダを置き去りにして。 一日目の夕 サバクのまんなかに たったひとつ  ちいさなちいさな 緑を見つけました  一度目の夕日の下で  彼は一人       オアシスへとたどり着きました 二日目の朝 カラッポの袋のふた をこじ開けて  いっぱいいっぱい 水を詰込みました  二度目の朝日の下で  彼は一人       渇いたのどを水に濡らしました 三日目の昼 イッパイに満たした 袋をかついで  やっとこさっとこ 水をはこびました  三度目のお日様の下  彼は一つ       大切な忘れ物を思い出しました 四日目の夜、独りで見上げた夜空。本当に一番大切だったものに、気がつきました。 四度目のお月様の下で、彼は泣きました。体中の水分がなくなるまで泣きました。  すっかり軽くなった若者の体は、やがて夜空に舞い上がりました。そして・・・独りぽっちの星座になりました。  星座になってもなお、独りぽっちの彼は涙き続けました。大粒の雨を降らせました。  町中の人が彼とそのラクダの事を忘れてから百の月が流れました。けれど、ちっとも雨は止みません。砂漠がすっかり雨を抱いたころ、砂漠の真中で不思議な木の芽が顔をのぞかせたのです。  不思議な木の芽は驚くほど速く生長して、五日目には大きな大きな木になりました。 いっぱいいっぱい雨を受け止めた木の周りには、たくさんの草や花が咲き、砂漠を一面緑にしてしまったのです。  驚くほどの速さで成長したその不思議な木は誰にも知られないまま、すぐに朽ち果てました。やっと大粒の雨が止みました。  その日の夜、星座になった若者のすぐそばに、もう一つ星座が増えていました。だから冬の夜空では、にっこり微笑んだ若者ともう一つ、ある動物の姿が見えるのです。  お話はここでおしまい。  あなたがどこかで独りぽっちになったときは、夜空を見上げてください。そして、ついでに、こんなお話を思い出していただけたら、幸いです。 https://inapapapa.web.fc2.com/urashima/index.html 作:稲葉こう一×うらしまB3たろ